【日本中が涙した】22年後のクレヨンしんちゃん。 「しんのすけ」と「ひまわり」の成長した姿に涙。。。
2016/05/26
家には、ひまわりが待っている。
オラの帰りを、待っている。
……それが、途方もなく足を重くしていた。
「……ただいま……」
家に帰りついてしまったオラは、静かに呟く。
すると家の奥から、車椅子の音が聞こえてきた。
……そして、いつもと変わらない様子のひまわりが、玄関にやって来た。
「お兄ちゃん、おかえり」
「あ、ああ……ただいま……」
「今日ね、ご飯作ってみたんだ。車椅子で作るのって大変だったよ」
「そ、そうか……ごめん、先にお風呂入るから……」
「……?う、うん……」
不思議そうな顔をする彼女を尻目に、オラは風呂に入った。
お湯に浸かりながら、ぼんやりと風間くんの言葉を思い出す。
目の前に立ち込める湯気と同じだった。
浮かんでは消え、消えては浮かび……壊れたレコードのように、ただ彼の言葉を繰り返していた。
「……それでね、そのテレビがね……」
ひまわりは、いつもの通り明るくオラに話しかける。
でも、耳に声が届かない。聞きたいのに聞けない。
余裕がないのかもしれない。
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「……お兄ちゃん?お兄ちゃん?」
「……え?」
ふと、ひまわりがオラを呼んでいることに気付いた。
「もう~。ちゃんと聞いてる?」
「あ、ああ……ごめん……」
「……」
するとひまわりは、神妙な顔でオラを見てきた。
「……お兄ちゃん、なんか変だよ?何かあった?」
「……」
少しだけ、どうするか悩んだ。
でも、ここで黙ってても、何の意味もないだろう。
風間くんは決意を固めて、オラに言ったんだから……
「……今日、風間くんと会ってたんだ……」
「……え?」
「全部、聞いたよ……」
「……」
室内は、静寂に包まれる。
時計の針だけが、時を忘れないように、懸命に音を鳴らしていた。
「……そっか……聞いたんだ……」
ひまわりは、諦めたように呟く。
「……いつからなんだ?」
「……風間くんが、海外に行く前からだよ」
「ずっと連絡を取ってたのか?」
「……うん」
「そうか……オラに黙って、か……」
「それは!……ごめん」
なぜだろうか。言葉が、止まらなかった。
「……結局、オラは信用されてなかったんだな。
風間くんは幼稚園からの友達、ひまわりは妹……なのに、オラは蚊帳の外だ……」
「そ、そんなつもりじゃ……!」
「もういいよ。……今日は、寝る……」
ひまわりの言葉を遮り、オラは二階に上がる。
(……最低だな、オラは……)
二階に上がりながら、今の自分に嫌気が差していた。
自分は、こんなにも醜い人間だったみたいだ。
八つ当たりを、ひまわりにもしてしまった……
それでも、今は眠りたかった。
そしてオラは、夢に逃げた。
「……しんのすけさん、元気がありませんね……」
「え?」
「顔が、憔悴しきってますよ?」
「……うん」
仕事中、あいちゃんにコーヒーを出した時、ふいに彼女が言ってきた。
「……何か、事情がおありなんですね……」
彼女の場合、黙るだけ無駄だろう。すぐに調べられる。
オラは、ことの次第を話した。心の内にある、思いも含めて。
「――なるほど。しんのすけさんも、辛かったでしょ」
「いや、オラがただ、最低なだけだよ……」
「そんなこと、ありません」
あいちゃんは、椅子を回転させ、オラの方を向く。
「人の気持ちというのは、そう簡単に割り切れるものではありません。時には、何かを恨みたくなるときもあるでしょう。
それは、いくら心が強くても、誰にでも起こり得ることなんです。
……ですから、今のしんのすけさんを、私は責めたりしませんし、軽蔑したりもしません。
その辛さは、あなたにしか分からないことなんです」
「……」
「……ですが、風間さんも、ひまわりさんも、しんのすけさんにとって、かけがえのない人ではありませんか?
それは旧来からの友であり、大切な肉親であり……どちらも、しんのすけさんという人にとって、大切な人なんじゃないんですか?」
「……うん」
「でしたら、努々忘れないで下さいね。
――二人もまた、あなたを大切に思ってることを……」
「……」
「……私が言えるのは、それだけです」
そしてあいちゃんは、仕事に戻った。
彼女の言葉は、とても響いていた。オラの心に、刻み込まれていた……
帰り道、オラは河原の芝生に座り込んでいた。
時刻は黄昏時。鳥たちは誰かに呼びかけるように、鳴き声を出しながらどこかへ飛び去っていた。
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