【日本中が涙した】22年後のクレヨンしんちゃん。 「しんのすけ」と「ひまわり」の成長した姿に涙。。。
2016/05/26
「――私も父も、かなり“しつこい”ですから。あしからず……」
そう言い残したあいちゃんは、部屋を出ていった。
残されたオラは、ただ愕然とするしかなかった。
それからのあいちゃんの押しは凄まじかった。
一つ、開き直ったのかもしれない。
弁当作りに出張という名のドライブ……一切引くことのないその様は、さしずめ防御を捨てた突撃兵といったところか。
家に帰れば、ひまわりからは結婚を勧められる毎日。
「はぁ……」
思わず、ため息が出てしまった。
「……どうしたんですか、しんのすけくん。ため息なんて吐いて……」
車を運転する黒磯さんは、視線を前に向けたまま聞いてきた。
「い、いえ。ちょっと最近、疲れてまして……」
「……お嬢様、ですか?」
「ハハハ……」
“はいそうです。”……などと返すわけにもいかず、とりあえず失笑で茶を濁す。
すると黒磯さんは、ふっと笑みを浮かべた。
「……少しばかり、大目に見てあげてください。お嬢様は、ご自身でも接し方があまり分からないのです」
「……小さい時には、ここまでなかったんですよ。ちょっと、びっくりしちゃいまして……」
「確かにお嬢様は、幼少時からしんのすけくんお慕いしておられました。
……ですが、やはり幼児期と今では、想いの位置が違うものです」
「想いの、位置……」
「はい。幼児期には、憧れが大きなシェアを占めるものです。しかし今は、それとは別の何かに惹かれています。
小さな頃から変わらない想い……しかし、実際の心境は、あの頃とどこか違うと違和感を覚えているはずです。
――故に、お嬢様自身、戸惑っているところもあるのです」
「……」
「ですから、今は暖かく見守ってあげてください。
これはボディーガードとしてではなく、私自身からの願いですよ」
「……黒磯さんは、大人ですね。凄くダンディーだと思います」
「ハハハ……私は、ダンディーなどではありませんよ。
――私はただの、黒磯です」
(……ダ、ダンディーぃ……)
スポンサーリンク
黒磯さんからそうは言われても、やはりあいちゃんからの圧は相当なものだった。
ようやく仕事が終わり、ヘロヘロになって帰宅する。
しかしまあ幾分か慣れたところはあった。
それが救いかもしれない。
「お兄ちゃんさ、なんではあいちゃんと結婚しないの?」
ひまわりは、実に不思議そうに聞いてくる。
「あいちゃん、綺麗だし、優しいし、仕事もバリバリだし、尽くしてるし……お兄ちゃんにはもったいないくらいなんだけどなぁ……」
妹よ。何気に失礼だぞ。
「……それはわかるんだけどな。ただ、結婚となると話は違うんだよ。
夫婦になれば、付き合っているときとは違う、制約みたいなやつが出るんだ。
好きだから結婚する……確かに、その要素は大きいけど、それだけじゃうまくいかなくなることもあるんだ。
――そんなに簡単なものじゃないんだよ。結婚は」
「……そんなもんかなぁ」
「そうそう。だからお前も、よく考えろよ?」
「……うん」
……その時、突然家のチャイムが鳴り響いた。
「……と、こんな時間に……」
誰だろうか気になりながら、オラは玄関に向かう。
そして鍵を開け、ドアを開いた。
「――はい。どちら様で……」
「……や、やあ……」
玄関先に立つ人物は、少し不器用な笑顔を見せ、片手を上げて挨拶をする。
その人は、オラがよく知る人だった……
「……よ、四郎さん?」
「……」
――四郎さんは、困ったような笑みを浮かべたまま、そこに立っていた。
「――本当にお久しぶりですね、四郎さん」
「あ、ああ……」
四郎さんを家に招き、テーブルを囲む。
四郎さんは、どこか落ち着かない様子だった。
それに、その身なり……着ている服はぼろぼろ。白髪混じりの髪もボサボサ。顔も煤汚れている。
「はい四郎さん。お茶です」
ひまわりは車椅子のまま、四郎さんに湯飲みを渡す。
「あ、ありがと……」
「四郎さんのことは、お父さん達から聞いてましたよ。ゆっくりしてくださいね」
笑顔を見せたひまわりは、奥へと戻っていった。
そんな彼女の背中を見ながら、四郎さんは呟く。
「……そうか……。確か、ひまわりちゃんは……」
「……ええ。事故で……」
「……それは、大変だったね」
「いいえ。ひまわりも悲観してるわけじゃありませんので、あいつはあいつなりに、きっと力強く生きていきますよ」
「……ひまわりちゃんは、強いんだね。それに比べて、僕は……」
言葉を最後まで口にしないまま、四郎さんは俯き目を伏せた。
「……四郎さん?」
四郎さんは、やはりどこか様子がおかしい。
何か、追い詰められているようにも見える。
「……あの、四郎さん。それで、今日はどういう用件で……」
「――そ、そうだ!せっかくなんで、僕がご飯作りますよ!」
「え?い、いや……」
「まあまあ!ちょっと台所借りますね!」
「え?あ、ちょっと……!」
まるで逃げように、四郎さんは台所へ向かう。
やはり、何かあるようだ。しかも、オラに言いづらい何かが……
それが何なのかは分からない。分からないけど……
(……とりあえず、様子を見るか)
もしかしたら、お金に困っているのかもしれない。
こう言ってはなんだが、彼の姿を見る限り、普通の暮らしをしているとは考え難い。
それならそうと言ってくれればいいのだが……まあ、そこは本人の口から言うべきことだろう。
オラはとりあえず、テレビでも見て待つことにした。
テレビでは、夜のワイドショーが流れていた。
特に見たい番組もなかったし、ぼーっとしながら眺めていた。
芸能人の噂、スポーツの結果、特集……いつもと変わりないような、極々ありふれた話題が放送されていた。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51
この記事が面白かったら
いいね!しよう☆
最新情報をお届けします