【日本中が涙した】22年後のクレヨンしんちゃん。 「しんのすけ」と「ひまわり」の成長した姿に涙。。。
2016/05/26
「――駆け落ち!?ど、どういうこと!?」
オラの家において、あいちゃんに問い詰めた。
しかしあいちゃんは、あくまでも淡々と答える。
「その通りの意味です。私と、どこかへ旅に出ましょう」
「旅って……」
するとあいちゃんは、表情に影を落とした。
「……お願いします、しんのすけさん」
そしてそのまま、深々と頭を下げた。
そう思い立った理由は言わなかった。聞けば答えてくれたかもしれないけど、どうしてだか、聞こうとは思わなかった。
それは、きっと彼女の口から、誰にも促されることなく聞きたかったのかもしれない。
彼女が何を思い、何を感じたのか……それは、オラが容易く聞けることではないのかもしれない。
そう、思った。
だからオラは、あいちゃんを連れて電車に乗った。
……実のところ、黒磯さんには密かに連絡を入れている。警察に届けられたら色々と面倒だろうし。
黒磯さんはすぐにでも迎えに行くと言ったが、オラが断った。
それがあいちゃんの意志であることを告げたら、黒磯さんはそれ以上止めなかった。
そしてただ一言、オラにこう言った。
「――お嬢様を、よろしくお願いします……」
「――うわあ!しんのすけさん、見てください!海がとっても綺麗です!!」
電車を降りると、目の前には一面の海が広がっていた。
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その駅は、海岸沿いにある小さな駅。駅員はいないようで、いわゆる無人駅のようだ。
降りたのはオラ達だけ。……というより、ここまで来ると、電車に乗っているのはオラ達だけだった。
ボロボロのホームにも、オラ達しかいない。
高台にあることから、裾には景色が広がっているが、遠巻きに見ても誰もいない。
……それにしても、駅からの光景は、オラですらも声を漏らしてしまうものだった。
見事に晴れた空と、空の色を写した海は、遠くに見える水平線で交わる。
空気には潮の香りが漂い、遠くから波の音が微かに聞こえていた。
まさに、この絶景を独り占め……もとい、二人占めしている気分だった。
「しんのすけさん!早く早く!」
あいちゃんは、オラを駅の出口へ引っ張っていく。
彼女は、白いワンピースを着ていた。ひまわりの服だ。
もともと肌の白い彼女は、その服がよく似合う。少し大き目の帽子を被っていて、まるで避暑地に来たお嬢様のようだ。実際にお嬢様だけど。
それにしても、こうやって間近で見ると、やはりあいちゃんはかなりの美人だと分かる。
電車に乗っていた時も、彼女はジロジロと見られていた。
電車の中で不釣り合いなほど、彼女だけ別の世界の人間のように思えた。
そんな彼女と二人っきりでいることに、少しだけ違和感を覚える。
それほどまでに、彼女はまるで絵本の中から跳び出して来たかのように、純然とオラの前にいる。
海岸際に来たオラ達は、砂浜に座って海を眺めていた。
波の音以外は聞こえない。
波音の演奏会をしばらく楽しんだ後、あいちゃんは静かに話し始めた。
「……しんのすけさん、私は、最近自分が分からなくなっているんです」
「……分からない?」
「私は、これまで両親の言う通りの人生を歩んできました。両親の期待に応えるために、必死に頑張って来ました。
……ですが、ふと最近思うんです。しんのすけさん、あなたを見ていると……」
「オラを?」
「はい。あなたは、いつも自然体でいます。それが、とても羨ましく思えてました。飾らない自分のまま、人生を歩くあなたの姿に憧れながらも、私は、嫉妬もしていました。
そう思った時、ふと、思ったんです。私は、このままでいいのだろうかって……」
「………」
「……そして先日、それを両親に打ち明けました。そしたら、怒られちゃいました。自分たちの言うとおりにすれば幸せになる……そう、父と母から言われました」
(……怒るほどのことか?)
「それを聞いて、私もっと分からなくなって。……私の人生は、いったい誰のものだろう。両親にとって、私ってなんだろう。
……そんなことを、考えるようになってしまって……」
「……家出を考えた、と……」
あいちゃんは、困ったような笑みを浮かべた。
「家出というわけではないんですけどね。……ただ、一度自分を見つめ直そうって思ったんです」
「………」
彼女は、生まれた時からあらゆるものを与えられてきたのだろう。
お嬢様だし、それも仕方ないのかもしれない。
だけど、今彼女は、そのことで悩んでいる。
今歩く道は、自分で決めたものなのか。ただ両親に促され、流されて生きて来たのではないか……そんな葛藤が、彼女の中にあるんだろう。
それはオラには分からない。彼女にしか、分かりようもない苦悩だと思う。
だけど……
オラは立ち上がり、あいちゃんの手を握った。
「………しんのすけ、さん?」
「あいちゃん、ちょっと来て」
少し強引に、彼女の体を引っ張る。
彼女は、わけのわからないといった表情で、ただオラに手を引かれていた。
「しんのすけさん!いったいどこへ……!!」
「………」
オラはただ、その場所を目指す。
そこはさっき見かけた場所。少しだけ高い岩場。
オラは彼女の手を掴み、岩場を駆けあがる。
「し、しんのすけさん……そっちは、海ですよ?」
「大丈夫。オラも一緒だから」
「で、ですけど……」
そして岩場の頂上に辿り着いたオラは、下を見る。
下は透き通るような海だった。他に岩はなさそうだ。
これなら……
「……しんのすけさん?」
不安そうにオラの顔を窺うあいちゃん。オラは、彼女に微笑みを向けた。
「……飛ぼうか、あいちゃん」
「……え?―――きゃっ!」
オラは彼女の手を引っ張り、海に飛び込んだ。
海面に落ちるなり、辺りには水しぶきが舞う。
塩水が口に広がる。目が少し痛い。
そしてオラとあいちゃんは、海水でずぶ濡れになった。
「うぅぅ……ヒドいです、しんのすけさん……」
あいちゃんは服の裾を絞りながら、恨めしそうにオラを見た。
「ごめんごめん。……でも、少しすっきりしたでしょ?」
「……確かに、それどころじゃなくなりましたけど……」
「でしょ?ハハハ!」
「……もう、笑いごとじゃないですよ」
そう言いながらも、あいちゃんは笑っていた。
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